公立学校で英語等外国語を教えるALT(Assistant Language Teacher, 外国語指導助手)の賃金・労働条件は各自治体によってさまざまであり、直接雇用もあれば英会話学校からの派遣もある。各学校では、日本人教員の「助手」として扱われていることが多く、ALTの語学指導力が生かされていないことも見受けられる。
またALTの地位は、地方公務員法3条3項3号に定められた特別職地方公務員とされているが、公務員は「任用」であって「契約」ではないということから、1年任期が終了すると理由もなく雇止めされることもある。そして、日本の裁判所はこれら外国人労働者に冷たく、その労働基本権を制限することに恥じらいを持っていない。

 地方公務員法・地方自治法改正とALT
日本政府は2017年5月に地公法や地方自治法を改正し、2020年4月1日を改正法施行日にして、地方自治体に条例制定を指導している。地方自治体は、法改正が要請する会計年度任用職員制度設置に向け、関係労組に対して提案を始めた。そのなかでALTも会計年度任用職員に移行させるとしている。しかし、会計年度任用職員について英語による解説は全く行われていない。
ALTは蚊帳の外におかれたまま、改正法施行を迎えることになりかねない。民間会社からの派遣ALTに置き換える動きも生まれている。
そこで会計年度任用職員についての解説と、それへの対応方針を英語で説明する必要があることから、下記のレポートを掲載する。
ALT及び関係される方が参考にしていただければ幸いである。

How will the amendments of the Local Public Service Act
and Local Autonomy Act affect ALTs?

 

尼崎市ALT

尼崎市ALTが公平委に賃上げの措置要求 2023

2023年12月14日、尼崎市立学校に働くALT(外国語指導助手)ら11人が、尼崎市公平委員会に対して、地方公務員法第46条に基づく勤務条件に関する措置を要求した。
( 公平委員会でのやりとりは以下に掲載 2024年2月16日現在 )

尼崎市教委が直接任用(雇用)するALTは14名いるが、その一部は教育合同組合員として市・市教委と賃金・一時金引上げを求めた団体交渉を行った。しかし市教委は、職員には国の人勧に沿って、4月遡及賃上げおよび期末・勤勉手当の引き上げを実施したにもかかわらず、ALTは賃金・一時金ともに据え置くとの回答を行った。その理由は、ALTには給料表が適用されないからというのである。ALTなど会計年度任用職員には国の非常勤職員同様に給料表が適用されないのが基本であり、また他府県・他市では給料表が適用されない固定給の会計年度任用職員にも人勧実施による賃上げが実施されているのであるから、市教委の賃金据え置きの理由には合理性がない。

また、尼崎市ALTは、2003年度に財政危機を理由に賃下げが強行され(表1)、30年前(1992年)の賃金水準に引き下げられている。他方、尼崎市長は、財政が好転したということで2022年の冬に報酬カットが終わり、2023年の冬のボーナスは元の水準に戻り大幅増になった、と報じられている(図1)。

このような30年前の賃金に据え置き、総務省通知や人事院勧告を無視して、賃上げを拒否する市・市教委を許さず、他の職員同様に扱うことを求めて、公平委への措置要求となった。公平委は措置要求を正式に受理して、市教委の意見を聴取する手続きに入った。

ALTなど非常勤職員は2020年地公法改正によって会計年度任用職員に地位替えがおこなわれ、スト権行使が制約されている。スト権など労働基本権制約の代償措置として、人事院勧告あるいは人事委員会勧告で賃金・労働条件が保障される仕組みになっている。その人勧が実施されないのなら、ストライキ権を奪うべきではない。尼崎市ALTはとりあえず、公平委への措置要求で賃金・労働条件の保障を求めた。この取り組みは、ALTなど会計年度任用職員の待遇改善に一石を投じることであろう。

なお、尼崎市教委は直接雇用ALTとは別に民間会社から派遣ALT9名を受け入れているが、その派遣可能期間(3年)延長のための手続きに法的疑義があることから、兵庫労働局が調査を行う模様である。

<表1> 尼崎ALTの賃金推移

<図1> 報道

神戸新聞の報道
尼崎市公平委員会 2023.12〜

尼崎市公平委員会での組合と尼崎市のやりとりは、以下の通りである。

ALT 措置要求書(2023.12.14)

市教委 意見書(2024.1.16)

ALT 反論書(2024.2.16)

尼崎ALTが年末団交 2022

 20221129日、尼崎支部は賃金・一時金等に関する年末団交を行った。2020年に会計年度任用職員に移行されて以降、賃金・一時金は据え置かれたままであった。他方、退職手当(退職慰労金)は2022年度をもって廃止されることとなった。この間、物価は上昇し、円安は進行し、ALTたちの実質賃金(かつドル換算)は低下するばかりであった。

 団交では、この事情を踏まえて賃金アップと日本人職員と同等割合による一時金支給を求めた。しかし、市・市教委はALT賃金が給料表に基づいていない固定給であること、他市ALTや他の会計年度任用職員との比較から賃上げはできないと回答した。また、一時金については、他の会計年度任用職員には勤勉手当引上げ分を報酬に換算して賃上げしているにもかかわらず、ALTの一時金を引き上げるとすれば月例給を減らすことになる、と脅し文句で回答するのであった。

組合は、他の会計年度任用職員との比較をするためには賃金一覧データが必要であると開示を要求した。その結果、データがそろった段階で交渉を再開することとなった。

派遣ALTを廃止して直接雇用せよ

尼崎市は2020年度から派遣ALTを導入した。その労働条件は悪く、毎年三分の一が入れ替わっている。またネイティヴ・イングリッシュが求められる英語教育が行われているか疑問が生まれている。

組合は、2022年度で3年間の派遣が終わるのだから、派遣期間を延長するには労働者派遣法に基づき労働者の過半数代表の意見聴取が必要であることを指摘した。市教委はこれについては関係機関と相談していると対応し、派遣期間の延長を考えていると回答した。組合は、派遣には反対であるから、労働者の過半数代表に立候補する予定であるから、選出手続きについてアナウンスをすることを求めた。

尼崎支部の結成

尼崎支部は市が財政難を理由に15%給与カットを打ち出したため、2002年に結成されました。ストライキや抗議行動、労働委員会申立などを繰り返し、5%カットに押しとどめました。尼崎市もALTを会計年度任用職員に移行させるとしていますが、具体的な労働条件についての提案が出来上がっていないため、2019年秋に交渉が本格化します。

神戸市KATE

神戸市は英語教育に力を入れていたが、1995年阪神大震災による財政危機からKATE(神戸市ALT)を大量解雇した。KATEたちは組合に加入して解雇撤回闘争を行った。その結果、再雇用を勝ち取ったKATEたちは待遇改善・労働条件改善に取り組んできた。他方、神戸市はKATEの新規採用をストップして、JET(語学指導等を行う外国青年招致事業)に切り替えた。しかし、JETは外国現地採用でかつ最長3年しか勤務できないため、英語教育の面からも問題が指摘されている。
KATEも会計年度任用職員への移行が考えられており、組合は2019年7月から団交を開始した。

KATE 会計年度任用職員にかかわる団体交渉を成功裏に終結!!

2019年7月から開始された団体交渉は、2月5日に神戸市が組合の要求を一部受け入れる形で終結となった。

神戸市はKATEの会計年度任用職員への移行にかかわり、年額報酬の維持は早々と表明したものの、「公募制」を導入する予定であると組合に示した。KATEたちは、長年、神戸市の英語教育に深く関わってきたにもかかわらず、JETと同様に3年を上限とするような「公募制」を示したことに対して、組合はその検討を強く求めた。

2月5日、神戸市は検討の結果として、KATEたちが神戸市の英語教育に長年果たしてきた役割や現状の働きなどから、「公募制」の導入は断念し、現行どおりにKATE採用を行うことを回答した。同時にKATEの定年制導入についても検討をしていきたいと示したものの、神戸市の回答は組合員たちにとっても十分に納得のいく内容となった。

しかし、組合の要求が受け入れられなかったものとして、病気休暇の無給化がある。現状では、年20日の有給の病気休暇が規定されているが、20年度からは無給となる。

この変更は、大阪府NETでも同様に行われており組合は大阪府に抗議文を送った。新たな感染症が発生するなど、感染予防の観点からも有給の病気休暇は必須である。しかし、国の非常勤に準じて有給化はできないと神戸市が回答したように、地方公共団体独自の判断はできていない。

芦屋市 ALT

芦屋市のALTが組合に加入したのは1999年です。西宮市のALTが民間委託されるとの情報を得たALTが雇用を守るために組合に加入したのです。芦屋市も阪神大震災の影響で財政難に陥ったとして労働条件の改悪を企てましたが、組合は跳ね返しました。そして、2007年には全ALTが加入したことで、芦屋支部を結成しました。

会計年度任用職員団交

2019年11月21日に行われた団交において、会計年度任用職員制度導入と労働条件について提案がありました。 

 ・国のマニュアルを無視できないが、できる限りALTの負担にならないようにしたいとの基本姿勢がまず示されました。その根拠として、会計年度任用職員への移行に当たって不利益が生じないようにという国会付帯決議に基づくことが言明されました。

・賃金については、現給が他の嘱託職員を上回るために行政職給料表適用が難しいので独自報酬制度を導入して、月額報酬・地域報酬・期末手当を支給するとの提案があり、組合もほぼ了承しました。現在の制度との比較はこちらから。

・採用及び再採用にあたっての3年公募方式や人事評価制度は詳細が決まっていないため、議論できませんでしたが、組合としては平等取り扱い原則以外の観点(例えば民主性、能率性、教育効果など)も含めて考えるべきであると主張しました。
・今後の課題として、週29時間・年間1508時間労働の現状はある意味で年間変形労働時間制であることから、現国会で審議されている給特法改正に関係して、厳密な再検討が必要になると思われます。

伊丹市 ALT・JTE

伊丹市にはALT、JTE、小学校で英語を担当する非常勤講師の組合員がいます。
組合はこの間、伊丹市と継続して会計年度任用職員に関する団交行なっています。
特に、ALTについては20年度からフルタイムの会計年度任用職員として雇用することとしてるため、多くの労働条件の変更が生じます。
これまでに行われた団交では
・給料
・退職手当 について協議しています。

大阪府 NET

橋下元知事の登場以降、英語教育に力を注いでいるとされる大阪府。府立高校にはNETと呼ばれる英語指導員とT−NETと呼ばれる外国人英語講師がいます。両者の違いは、NETが大阪府の直接雇用なのに対して、T−NETは語学学校からの派遣です。NETの多くは長年に渡り(4年以上の継続勤務者が75%)大阪の英語教育に携わっていますが、T−NETでは年度途中に講師が変わることも多いなど、腰を据えて英語教育に携われるような労働条件ではありません。
NETの労働条件も決して良いわけではなく、賃金は1996年のわずか1%アップ以降、20年以上も据え置かれている状態です。これは、組合員らが勤務する阪神地区のALT(外国語指導助手)と比較しても大変劣悪な条件です。
そのような中、大阪府はNETを「会計年度任用職員」に移行するとして、労働条件の変更を提案しました。この提案には「会計年度任用職員」に移行するとしている他の非常勤職員同様に賃金に関する変更は含まれていません。休暇や身分に関する労働条件の変更を提案しました。組合は特に休暇の変更が不利益変更であるとして団体交渉を申し入れました。

休暇制度の主な改悪は以下のようなものです。
・年20日の年次休暇を10日とする
・有給の病気休暇20日をすべて無給化
・服喪、結婚休暇のため日本国外に渡航するための休暇の廃止
組合は計2回の団交を持ち撤回を迫りました。
年次休暇については、労働基準法通りに6年6月を超えて勤務するNETに関しては20日の付与となりましたが、それ以下の場合は改悪のままです。また、国外出身者であることを前提とした雇用にもかかわらず、服喪、結婚休暇については、他の職員との権衡を理由に廃止を撤回しませんでした。そして、何よりも劣悪なのは病気休暇の無給化です。
組合は、インフルエンザ等の感染症など感染予防の観点からも一定の条件を満たせば有給で付与するべきだと要求しました。NETは週33時間50分と極めて常勤に近い形態で勤務しています。生徒、同僚と接する時間も長く、賃金の不安なく十分に感染の恐れがなくなるまで休養する必要があるのです。しかし、大阪府は感染症等に限って有給を認めるという組合からの譲歩案さえも拒みました。組合は大阪府に抗議文を提出しています。

NET 感染症予防の病気休暇を要求

記者会見で有給の病気休暇の必要性を訴える

2月19日、組合はNET(英語指導員)の病気休暇が20年度より無給となることに対して、大阪府・大阪府教育委員会に再考を求める要求書を渡しました。

学校は感染症の拡大リスクの高い場であることは、首相の突然の全国一斉休校要請からも明らかとなっています。そのため、現状でも感染症予防のための児童・生徒の出席停止措置などがあるのです。しかし、大阪府をはじめ神戸市など多くの学校現場でほとんどフルタイムと変わらぬ長時間を学校で働く英語指導員には有給の病気休暇が20年度から付与されないことになります。その理由は、国の非常勤職員には有給の病気休暇がないからに尽きるようです。

組合は、思いつきの一斉休校ではなく、日頃からの感染拡大予防措置の制定を国および各自治体に要求します。